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心不全パンデミックを
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心不全とは?

心不全とは、心臓のはたらきが低下することで、全身の臓器へ必要量の血液を送り出せなくなり、さまざまな症状があらわれる状態のことです。

心不全は、狭心症や心筋梗塞などの「虚血性心疾患」や、心臓に負荷がかかる「高血圧」、心臓の弁に障害が生じる「心臓弁膜症」など、多様な疾患が原因となり発症します。

心不全の症状は、軽症~致死的なものまで多岐にわたります。軽症の方では息切れ、動悸、易疲労感(いひろうかん:疲れやすさ)、手足のむくみ(浮腫)といった症状で、日常生活に支障があらわれます。一方、重症の方では重度の呼吸困難や意識障害があらわれ、救急搬送が必要になります。そうした場合には命に危険が及ぶ可能性もあるため、生死にかかわる疾患ともいえます。

いま、この「心不全」が日本で急増するのではないかと懸念されています。これは日本が、世界でも類をみないスピードで高齢化を迎えているためです。

心不全は、高齢になるほど有病率が増加することがわかっています1)。そのため急速に高齢化が進む日本では、心不全の有病率が急上昇し、近い将来、まるで感染症の流行(パンデミック)のように心不全患者さんが急増するのではないかと予想されています。

こうした現象は「心不全パンデミック」と称され、現在その対策が急務とされています。

心不全パンデミックの危険性

心不全パンデミックの問題は、たくさんの患者さんの命にかかわるという「臨床上の問題」だけではありません。病院の受け入れ体制不足や医療経済的負担といった「医療整備の問題」にもつながります。

厚生労働省の資料によると、2030年には3人に1人が65歳以上、さらに2060年には高齢化率が約40%で、若い方と高齢の方の割合が同じ程度にまで近づくと予測されています2)。このように高齢化が進み、心不全患者さんが増加すれば、入院医療が必要な心不全患者さんが急増し、病院が患者さんを受け入れきれなくなることが予想されます。

さらに、心不全には「再発しやすい」という特徴があります。再発しやすいということは、再び入院する可能性が高いということです。心不全患者の再入院率は、退院後の1年間で20~40%とされており3)、こうした高い再入院率から、心不全パンデミックによって医療負担のさらなる増大が懸念されています。

果たして、現状の医療体制で、増加する心不全患者さんを受け入れきれるのでしょうか。このままの体制で心不全パンデミックに見舞われたら、あっという間に救急医療がパンクしてしまうかもしれません。

未来予測

「心不全パンデミック」はいつ起きる?

心不全の「入院数」は年々増加の一途をたどっています。

日本循環器学会の2016年循環器疾患診療実態調査報告では、心不全として入院した患者さんの総数は2013年で16万1,721人、それから患者数は増加を続け、2016年には20万5,181人に達していると報告されており4)、心不全による入院患者さんは年々増加していることがわかります。
※それぞれ急性心不全入院患者数・慢性心不全入院患者数は、2013年で(80,933人、80,788人)、2016年で(102,810人、102,371人)

そして、日本における心不全患者数を予測した研究では,心不全患者さんの数の増加は加速傾向にあり、2035年には130万人にまで増加して「ピーク」を迎えると予測されています5)

このようなデータからも、数十年後という、そう遠くない将来、日本で心不全パンデミックが各地で起こりうると考えられています。

横須賀市の未来予測

神奈川のなかでも高齢化が進む「横須賀市」

地域によっては、より高齢化が早く進んでいるところがあります。
たとえば、神奈川県の南東部に位置する「横須賀市」では、首都圏に位置している都市のなかでも早いペースで高齢化が進んでいます。
国勢調査の結果をもとに横須賀市の人口動態データをみてみると、高齢化率は上昇傾向にあり、2015 年には 29.1%になりました。つまり横須賀市民の約3人に1人が65才以上になったといえます6)

ではこれから、横須賀市でさらなる高齢化が進むと、市内の心不全患者さんはどれくらいにのぼると予想されるのでしょうか。

年齢ごとの心不全有病率1)と、横須賀市の人口動態のデータ7)から計算してみると、2025年には心不全の新規発症入院数は年間2,000人、慢性心不全の通院(在宅)患者数は年間6,000人以上となり、横須賀市の人口の1%以上が心不全になると予想されます。

年間2,000人の新規入院患者数が、しかもすべて心不全が原因で、ということはこれまででは考えられないような事態です。増加する心不全の発症に対して、地域全体で対応するシステムを作っていかなくてはなりません。

うわまち病院と
横須賀市の取り組み

うわまち病院で進む「包括的心不全外来システム」

そうしたなか横須賀市立うわまち病院では、急増する心不全に対して「地域全体」で対応するシステム作りに取り組んでいます。それが『包括的心不全外来システム』です。

これは、心不全患者さんに対する急性期医療から心臓リハビリテーションまで、つまり患者さんがうわまち病院に救急搬送されたときから、退院し、地域のクリニックでリハビリを続けられるまでを包括的に診療して、再発をおこさないようより細やかに治療をサポートしていく取り組みです。

この取り組みでは、急性期、回復期、心臓リハビリテーション、それぞれで関わる多職種の医療従事者が連携をしっかりと取って進めます。さらに病院を退院後、町のクリニックの先生方とも連携を密にとって、患者さんのその後の状態を共有できるシステムを作ることで、個々の患者さんにとってより適切な治療を地域全体で一緒に考えていきます。 こうした取り組みを行うことで心不全の再発防止をさらに強化でき、このシステムから得られた医学的エビデンスや知見をもって、さらに効果的な心不全治療を検討していくことが可能になります。

また医学的エビデンスや知見は横須賀の患者さんのためにとどまらず、日本中に展開できるものです。情報を発信することで、この取り組みはさらに心不全パンデミックの危機にあるあらゆる地域にとって価値あるものになると考えられます。

  • 参照
  • 1) Bleumink GS. et al. Eur Heart J. 2004 Sep;25(18):1614-9.
  • 2)内閣府 平成28年版高齢社会白書(概要版) 第1節 高齢化の状況より
  • 3) Tsutsui H. et al. Circ J. 2006; 70: 1617-23.
  • 4) 一般社団法人日本循環器学会 循環器疾患診療実態調査報告書(2016 年度実施・公表)JROAD(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases)より
  • 5) Okura Y, et al. Circ J. 2008; 72: 489-91.
  • 6) 横須賀市 「横須賀市まち・ひと・しごと創⽣総合戦略 横須賀市⼈⼝ビジョン」 平成 28 年(2016 年)3 ⽉より
  • 7)総務省統計局. 平成27年国勢調査より